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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)1802号 判決 1957年3月19日

原告 株式会社イブニンゲスター社破産管財人 藤井幸

被告 株式会社七十七銀行

主文

1  被告は原告に対し二〇万円及びこれに対する昭和二八年三月一日以降完済に至るまでの年六分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

1  原告の請求の趣旨、請求の原因、被告の抗弁等に対する反対主張は別紙中の当該各記載のとおりである。

2  被告の答弁及び抗弁等は別紙中の当該各記載のとおりである。

立証

1  原告は甲第一号証の一、二、同第二ないし第四号証、同第五ないし第九号証の各一ないし三を提出し、証人岩田武夫、同上村栄一、同石川秀の各証言を援用し、乙第一、第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、同第五第六号証の各一、二同第七ないし第一〇、第一二号証の各一、同第一三、第一四号証の一、二同第一五号証の成立を認めその余は不知と述べた。

2  被告は、乙第一、第二号証、同第三号証の一ないし三同第四号証の一、二、同第五、第六号証の各一ないし三、同第七号証の一、二、同第八号証の一ないし三、同第九第一〇号証の各一、二、同第一一号証、同第一二ないし第一四号証の各一、二、同第一五号証を提出し、証人伊藤鉄之助、同上村栄一の各証言を援用し、甲第四号証の成立、同第五、第六号証の各一、二、同第七号証の一ないし三、同第八、第九号証の各一、二のうち郵便官署の作成部分の成立をいずれも認め、その余の同各書証部分及び乙各号証は不知と述べた。

理由

1  訴外株式会社イブニングスター社の営業目的、その破産宣告を受けた日、原告がその破産管財人であること、被告銀行の営業目的、原告主張のとおり被告銀行が東京支店を有し、同支店において右訴外会社に融資をして来ていたこと、昭和二六年頃その融資の担保として訴外会社の売掛代金債権及び在庫商品を担保としたことは、いずれも当事者間に争がない。

2  被告銀行が右破産会社から物件目録記載の書籍を昭和二七年八月三一日引渡を受けたことも当事者間に争がなく、原告は右引渡は右同日右両者間に行われた既存債務のための譲渡担保契約によるものであり、当時破産会社は事業不振、債務超過で倒産状態にあつたので被告銀行は右譲渡担保契約が破産債権者を害するに至ることを知つてこれをなしたものであると主張するから、この原告主張について見るのに、

前記争のない各事実、成立に争のない甲第四号証、乙第一、第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、同第五、第六号証の各一、二、同第七ないし第一〇、第一二号証の各一、同第一三第一四号証の各一、二同第一五号証、証人伊藤鉄之助の証言によつて真正に成立したと認める乙第三号証の三、同第四号証の二、同第五第六号証の各三、同第七号証の二、同第八号証の二、三、同第九第一〇第一二号の各二、同第一一号証、証人岩田武夫の証言によつて真正に成立したものと認める甲第一ないし第三号証、証人岩田武夫、同上村栄一、同伊藤鉄之助の各証言を綜合すれば、被告会社は昭和二一年二月頃から前記出版事業を始め、戦後の混乱期に乗じて相当な営業成績を上げたが昭和二三年頃早くも約六〇〇万円の負担を出し不振状態となつたが偶々当時の社長訴外上村甚四郎の紹介でその取引先の被告銀行東京支店から四〇〇万円の融資を受けて一時立ち直り、大衆向読物等の雑誌類を発行して来たが、その後破産会社は各種の雑誌類、単行本をも発行して事業を拡張したにかかわらず、業績はそれ程に振わず被告銀行から次第に多額の融資を受けるようになり、昭和二五年四月中被告銀行の融資に対しては、破産会社の発行すべき出版物の全部及びその出版物の元卸先に対する代金債権を担保とすることを約して、その代金債権については大口の取引先である訴外日本出版販売株式会社及び同東京出版販売株式会社に対し、破産会社及び被告銀行両者連名の下に同月二六日内容証明郵便で以後右会社に対する破産会社の売掛代金はすべて被告銀行が破産会社に代つて受領する旨の通知と、その場合の包括的な代金受領委任をした旨の書面を送り、その頃右各会社のこれに対する承諾を得て、以後被告銀行において右代金を受領し、破産会社に対する融資金の返済に充当し、さらに引き続き融資をして来ていたこと、その後被告銀行東京支店長として以上の取引に当つてた訴外坂井二郎はしばらく被告銀行を退職していたが破産会社の社長に迎えられ、昭和二六年九月一日破産会社は被告銀行との間に改めて融資の限度額を四、〇〇〇万円とし、その後生ずるその出版物卸取引先に対する売掛金債権及び出版物のすべての在庫品を担保として被告銀行に提供することを約し、前同様の方法で右売掛金は被告銀行が取り立て、在庫品の出納は一応破産会社で取り扱つたがその都度被告銀行に報告し、正常な金融先としては専ら被告銀行に依存していたこと、ところが破産会社の業績は依然として悪く、右売掛金債権及び在庫品を除いては確実な資産もないのに昭和二七年八月に至つて融通手形発行による債務一、〇〇〇万円以上の外に被告銀行の融資額は四、〇〇〇万円を超える状態となつたので同月三一日被告銀行の申入によつて破産会社の機構及び事業の縮小を企てるとともに被告銀行の融資限定を三、七〇〇万円に減じ、さらに改めて当時在庫中の別紙中物件目録記載の書籍を被告銀行に譲渡し、簡易の引渡を済ませたが、被告銀行はその後破産会社の業態を検討した結果以後の融資を拒絶することにし、その旨同年九月十一日頃破産会社に通告したため、破産会社は遂に同月一二日支払停止をするに至つたこと等を認めることができ、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。これ等の認定事実によれば、被告銀行は破産会社に対しては長年に亘つて多額の融資をして来ておりまた人的にも関係があり、さらに一種のいわゆる銀行管理に等しい形態で融資していたのであるから破産会社の財産状態を終始よく知つていたことは明であるけれども、同時に、破産会社は被告銀行の間断ない融資に依存して業績の振わない事業を希望を持ちながら長年に亘つて継続し得たものであつて、経営の才と時運とに専まれたならばその間に業績を向上させてその債権者に満足を与え得る機会を持つてきたのであり、被告銀行がこのような経営状態の破産会社に前記融資を継続したについては、その売掛代金債権や在庫品を前記形式で担保に供させたからこそであり、また破産会社の経営の立直りを信じたからこそであると思われ、右の形式による担保の提供及びその取得自体には何等破産会社にも被告銀行にも破産債権者を害する意図も認識もなかつたものと思われる。ところで右形式による担保についての基本契約成立当時には未だ特定の在庫品が存在していないし、前出各証拠によつて見ても同契約に含まれる在庫品の品名数量が常に債権者である被告銀行に把握されていたとも思えないので、右担保の基本契約は常に異動する右在庫品について譲渡担保、債権その他如何なる性質の権利を被告銀行のために設定したのか判断し難いけれども、在庫品を営業目的に従つて販売に供する外は被告銀行以外の債権者に譲渡しまたは担保に供しないこと、及び何時でも当該時における在庫品全部を被告銀行の所有権または質権の対象とする包括的な事前の処分行為であると考えられる。そうとすれば破産会社が被告銀行に対し昭和二七年八月三一日在庫の別紙中の物件目録記載の書籍を譲渡担保に供したのは、右説明の性質を有する基本の担保契約に基く事前の処分行為を具体化したものに過ぎず、右同日に新にした処分行為ではないというの外なく、従つて右両当事者の同日における破産債権者詐害の認識を問題にすべきではないばかりでなくまた両者はいずれも前記基本の担保契約締結の延長として、特に右同日における譲渡担保契約が破産債権者を害するものであることの認識を有しなかつたものと思われる。

そして、前記基本の担保契約に当つても、破産会社及び被告銀行はいずれも破産債権者を害することを知つていなかつたことは前説明のとおりであるから結局、別紙中物件目録記載の書籍に関する原告の破産法第七一条第一号を根拠とする否認権行使は理由のないものというの外ない。

3  被産会社が訴外東京出版販売株式会社、同日本出版販売株式会社、同株式会社中央社に対する原告主張請求原因第五項の売掛代金債権を被告銀行に譲渡したことは当事者間に争がなく。そのうち株式会社中央社に対する二〇万円の右債権を被告が譲り受けたのは昭和二七年九月一二日であり、これを被告銀行の破産会社に対する債権の弁済に充当したことは同被告の自ら認めるところである。

従つて別段の反証がないので、前認定の各事実に徴すれば、被告銀行は破産会社の支払停止後そのことを知つて右株式会社中央社からの譲受債権額二〇万円と同額の弁済を受けたものと認めるのは自然であろう。

しかし、その他の前記二会社に対する売掛代金債権については別れ考える必要がある。すなわち、郵便官署の作成部分について成立に争がないので全部真正に成立した内容証明郵便物があると認められる甲第六号証の一、二、同第七号証の一たいし三、同各書証によつてこれまた真正に成立したと認める甲第六号証の三によれば、右両訴外会社に対する破産会社の債権を被告銀行に譲渡した旨の通知を確定日附ある書面でしたのはいずれも昭和二七年一二月三〇日であることが認められるけれども、これ等の債権はいずれも前認定の各事実に照すと破産会社がその出版物を右両訴外会社に卸売した代金債権であり、昭和二五年四月二六日破産会社及び被告銀行両者連名の下に内容証明郵便で、以後被告が破産会社に代つて受領すること及びそのための包括的委任の旨を通知し、そのことについて両訴外会社の承諾を得た債権に属するものであるということができ、従つて既に前記確定日附のある昭和二七年一二月三〇日の債権譲渡通知以前遅くとも破産会社が通常の営業活動を続けていて未だ支払停止には至つていない間に、同両訴外会社に対する債権は被告会社のため担保されていたものということができるからである。

この場合にも前記在庫品の担保契約の性質について説明したと同様の問題がある。すなわち、右両訴外会社に対し債権の弁済代理受領の旨を通知したのは、被告銀行及び破産会社間の前記認定の融資に関する担保契約に基くものであるが、同契約の成立当時まだ右訴外会社に対する売掛代金債権は具体的に発生していないのであるから、その後に発生した債権について、その発生の都度直ちに破産会社のため債権譲渡又は質権設定の効力が生ずるとはいゝ難いが、しかし、他面右訴外会社に対する代理受領の通知及び訴外会社のその承諾は、単なる取立方法の特約ではなく、その以後、訴外会社が被告会社に対して負担する買掛代金債務の弁済金を被告銀行以外の者には支払わないことを約したもので、これに違背したならば被告銀行に対し、契約違反による責を負うべき効果をも伴うものと考えられ、他面担保契約当事者である破産会社と被告銀行との間では被告銀行は何時でも右売掛代金債権の取立をし、その受領した弁済金を当然にその破産会社に対する債権の弁済に充当し得ることになつているものと考えられる。このような担保契約は往々見られるところであつて、担保に供されるべき債権の額が未定或は浮動の場合の便法として右説明の効果が与えられて然るべきであり、しかも右代理受領の通知及びその承諾が本件の場合のように内容証明郵便による郵便官署の日附のある書面においてなされるときは、右説明の効果は第三者である原告に対しても対抗しても対抗し得るものというべきであり、前認定のとおり、昭和二五年四月以来破産会社の支払停止の頃に至るまで引き続き右の方法による代理受領が行われていたことによつて見れば、右各会社間の右契約は引き続き効力を有していたものというべきである。そうとすれば、右契約上の効果として両訴外会社に対する前記債権は既にその発生の時において被告銀行の前記説明の意味での担保に供されており、しかも、その日は破産会社の支払停止の日以前であることは前説明のとおりであるから、前記昭和二七年一二月三〇日の債権譲渡通知はその後のものではあるがこれによつて新に担保に供したものではなく、またその債権譲渡通知は前記担保の趣旨を明確にしたものに過ぎないと見ることも可能であろうし、その後右債権の取立をしたとしても前記担保契約上の当然の権利行使であるから、右債権譲渡の形式的行為及びその債権の取立を破産法第七二条第二号に該当するものとして否認することはできないものとするの外はない。

4  以上2及び3において述べたような将来発生すべき債権または在庫品を目的とする担保契約の効力についての考方は、金融機関の横暴を助長することになるという見方があるかも知れないが、本件の場合のように債務者が担保となるべき確実な固定資産を有せず、しかし、その製品に担保価値があり得るという場合、前記説明のような性質を持つ担保契約も考えられて然るべきであつて、その担保物がたまたま法律に定められた担保権の設定に適しないところから、事前に十分に担保契約を明にする方法を講じながらも後に債務者が破産状態を招くに至つて問題を生じたに過ぎず、その担保権が法定の定型的なものである場合にくらべて、本件の場合実質的に格別破産債権者を害する結果を招いているものでもないと考えられるし、特に本件の場合、破産債権者は予め破産会社と被告銀行との前記のような融資契約上の関係を知つていたものと前記各認定事実から推認できないこともないから、以上のような考方を持つても破産債権者を害するものとはいえないであろう。

5  以上のとおりであるから、被告会社が訴外株式会社中央社に対する債権の譲渡を受けて、破産会社に対する債権の弁済に供した点のみについて原告の否認権行使を認容し、従つて、被告会社に対し右によつて得た利益二〇万円及びこれに対する右受益の日の後であることの明な昭和二八年三月一日以降完済に至るまでの商事法定利率による年六分の割合による金員の支払を求める範囲のみで原告の請求を認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法第九二条を適用し、なお仮執行の宣言は不適当としてこれを附さないこととして主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治)

請求の趣旨

一、被告は原告に対し金弐百拾四万壱千六百七拾四円及び、内金四十万円に対しては昭和二十八年二月十五日以降、一万三千八百四十円に対しては昭和二十八年三月一日以降、三十八万四千四百四十三円に対しては昭和二十八年四月十六日以降、十四万三千三百九十一円に対しては昭和二十八年五月三十一日以降、百万円に対しては昭和二十八年二月十七日以降、二十万円に対しては昭和二十八年三月一日以降、いずれも完済するまで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告は原告に対し別紙物件目録記載の書籍十一万六千六百九冊を引渡せ。もし引渡しが出来ないならば金五百六十九万四千百六十九円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済するまで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告が負担せよ。

との判決と仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一、東京都中央区銀座六丁目四番地交詢ビル内株式会社イブニングスター社は昭和二十七年九月十二日支払を停止し昭和二十八年四月一日東京地方裁判所昭和二十七年(フ)第二三二号事件として破産の宣告を受けた。

原告は右破産宣告と同時に選任された其の破産管財人である。

被告は東京都中央区日本橋茅場町一丁目十四番地の一に東京支店を設けて銀行業を営む株式会社である。

二、破産者株式会社イブニングスター社(以下破産会社と略称する)は書籍の出版業を営んでいたが昭和二十四年事業不振により倒産状態となつた際当時被告会社の東京支店長であつた坂井二郎の斡旋により同支店より金四百万円の特別融資を受け危機を免れたが、其の後坂井二郎を破産会社の取締役社長に迎えると共に昭和二十六年頃より在庫商品及び売掛代金等を担保として被告会社東京支店より常時金四千万円を限度とする融資を受け事業を継続していた。

三、其の後破産会社は事業不振により債務超過となり再び倒産状態に陥つた。その為め昭和二十七年八月被告会社東京支店より「従来の四千万円の枠による融資を継続することはできないから他の債権者に対しては支払期日を一ケ年延期して貰つた上分割支払の方法をとれ。尚人員を減らして社内機構を整理せよ。そうすれば枠を縮少して融資してやる」との通達を受けた。そこで破産会社は右の通達事項実現に努めると共に被告会社からの要求により昭和二十七年八月三十一日別紙物件目録記載の書籍を譲渡担保とし被告会社東京支店との間に三千七百万円を限度として融資契約を締結した。

四、ところが右契約を結締し目的物件を引渡すや、被告会社東京支店は「本店からの命令で融資はできない」と譲渡担保とした書籍を従来の債権の一部に充当する旨を通告し同時に金融を拒否した為め破産会社は昭和二十七年九月十二日遂に約束手形不渡により支払を停止するに至り同年十月二十二日破産の申立を受けた。即ち右譲渡担保契約の締結は破産会社被告会社共に他の債権者を害することを知悉して為した行為であるから、破産法第七十二条第一号に該当する。

五、破産会社は支払を停止し破産の申立を受けた後の昭和二十七年十二月三十日破産債権者を害することを知りながら

(1)  東京都千代田区九段一丁目七番地東京出版販売株式会社に対する売掛代金債権二百七十二万九千六百三円七十五銭を

(2)  東京都千代田区神田神保町二丁目三十番地日本出版販売株式会社に対する売掛代金債権百四十九万五千五十三円三十銭を

(3)  東京都千代田区神田須田町一丁目二十三番地株式会社中央社に対する売掛代金債権三十万九千六十三円十五銭を

(4)  東京都千代田区神田小川町三丁目十一番地栗田雑誌販売株式会社に対する売掛代金債権二十二万七千四百二十四円八十銭を

それぞれ被告会社東京支店に譲渡し、被告会社東京支店は他の破産債権者を害することを知悉しながら右債権の譲渡を受けた。右は破産法第七十二条第二号に該当する。

六、被告会社東京支店は右譲渡を受けた債権のうち

(1)  東京出版販売株式会社からは

(イ) 昭和二十八年二月十四日に金四十万円

(ロ) 昭和二十八年二月二十八日に金一万三千八百四十円

(ハ) 昭和二十八年四月十五日に金三十八万四千四百四十三円

(ニ) 昭和二十八年五月三十日に金十四万三千三百九十一円

の支払を受け

(2)  日本出版売株式会社からは

昭和二十八年二月十六日に金百万円

の支払を受け

(3)  株式会社中央社からは

昭和二十八年二月二十八日金二十万円

の支払を受けた。

七、破産会社と被告会社東京支店との間に為された右債権譲渡及び譲渡担保契約は何れも破産法上否認せらるべき行為であるから原告は本訴訟を以て之等に対する否認権を行使する。

従つて被告会社は原告に対し譲渡された債権中債務者より支払を受けた金額合計金二百十四万一千六百七十四円と譲渡担保として取得した別紙物件目録記載の書籍合計十一万六千六百九冊を引渡すべきであり、もし右書籍の引渡しが出来ない場合は其の代償として卸売価格相当額の金五百六十九万四千百六十九円を支払うべきである。

目録

書名        数量

驚異の世界航空機   一〇、九五〇冊

電波篇第二集       五、四五〇

翼のアルバム       八、四八〇

恐怖の新兵器       八、五九〇

明るい生活の工夫     七、〇四〇

日本一流ヌード傑作集   七、一六〇

ポートレートの写し方   三、四四〇

シンクロ写真の写し方   六、一八〇

正しい露出の決め方    二、七二〇

商業デザイン全集(二巻) 三、五〇一

同       (三巻) 三、一七一

同       (四巻) 二、八三二

同       (五巻) 一、六八〇

天皇と生物採集      二、五六七

自動車事典        八、三四〇

写真の事典        一、一〇〇

ラジオテレビ事典     六、三一一

英字デザイン集        三〇〇

模型飛行機の作り方    二、九九〇

生物採集ポケツトブツク  一、五二六

謄写版新技法         二〇〇

以上処分によつて取得した合計金額

二、〇〇一、四〇〇円

被告の答弁

否認権行使事件につき次の通り陳述する。

請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との御判決を求める。

請求の原因に対する答弁

一、請求の原因第一項の事実のうち、破産会社が原告主張の頃に支払を停止した事実は不知、その余の事実は争わない。

二、同第二項中の事実のうち、破産会社が書籍の出版業を営んでいたこと、被告会社が原告主張の頃より破産会社に融資したこと、訴外坂井二郎が破産会社の取締役社長に就任したこと及び被告会社が昭和二十六年頃より在庫商品、売掛代金等を担保とし破産会社に融資をして来たことは争わないが、その余の事実は争う。

三、同第三項の事実のうち、被告会社が原告主張の書籍を譲渡担保として破産会社より引渡を受けた事実は争わないがその余の事実は否認する。

四、同第四項の事実のうち、被告会社が破産会社に対する融資を拒否したこと、破産会社の約束手形が原告主張の頃不渡となつたこと、破産会社が原告主張の頃破産の申立を受けたことは争わないがその余の事実は否認する。

五、同第五項の事実のうち、被告会社が原告主張の債権の譲渡を受けたことは争わないがその余の事実は否認する。同項(1) 及び(2) の債権を譲受けたのは昭和二十五年四月二十六日であり、(3) 及び(4) の債権を譲受けたのは同二十七年九月十二日である。

六、同第六項の事実は争わない。

七、同第七項は否認する。

被告の抗弁等

一、被告銀行は昭和二十三年頃より破産会社に対し、手形割引又は手形貸付の方法により貸付をして来たのであるが、昭和二十五年四月二十六日に至り破産会社は被告銀行に対し、同日現在において負担し、又は将来負担する債務の総てを担保するため破産会社が同日以降において日本出版販売株式会社及び東京出版販売株式会社に対して取得する雑誌ポピユラーサイエンスその他の商品売掛金債権の全部に質権設定をし、同日附内容証明郵便を以て破産会社より右両訴外会社にその旨の通知をし、爾後被告銀行は右両訴外会社より破産会社が売渡した雑誌ポピユラーサイエンスその他商品代金を直接受領し、破産会社に対する貸付元利金の一部に充当して来たものであり、請求原因第六項(1) 及び(2) の金員も同趣旨で支払を受けたものである。

二、その後昭和二十六年九月一日、破産会社は被告銀行に対し、同日現在負担し又は将来負担する債務を担保するため、同日現在において所有し又は将来所有する総ての商品並びに前記東京出版販売株式会社及が日本出版販売株式会社以外の得意先に対し現に所有し又は将来取得する商品売掛代金債権の総てを譲渡し、被告銀行の請求あり次第何時でも在庫商品の全部及び一部を引渡し且つ売掛代金債権譲渡に必要な手続をすべきことを約したので被告銀行は破産会社に対し更に融資を続けることゝしたのである。

三、被告銀行は前記契約に基き昭和二十七年八月三十一日別紙目録記載の在庫品を破産会社から引渡を受け、同二十八年四月二十日までの間に同目録記載のように合計金二百万一千四百円で売渡し、その売掛代金を破産会社に対する貸付元利金の一部に充当したものであり、請求原因第五項(3) 及び(4) の売掛代金債権を昭和二十七年九月十二日譲り受けたので前記契約に基くものであり、請求原因第六項(3) の金弐拾万円も破産会社に対する貸付元利金の一部に充当したものである。

被告の抗弁等に対する原告の反対主張

一、第一項中

(1)  被告が昭和二十三年頃より破産会社に対し、手形割引又は手形貸付の方法で貸付をして来たことは認める。

(2)  昭和二十五年四月二十六日、破産会社が日本出版販売株式会社及び東京出版販売株式会社に対して内容証明郵便を差出したことは認める。但しこの内容証明郵便は、商品売掛代金受領の代理に関する委任状であつて、質権設定に関するものではないから、通知の内容は否認する。

(3)  被告が両訴外会社より商品代金を直接受領したことは不知。もし仮に直接受領したとしても元利金に充当したのが質権に基くものであることは否認する。

(4)  その他は否認する。

二、第二項中

(1)  昭和二十六年九月一日破産会社と被告との間に(乙第十五号証の如き)契約が締結したことは認める。

(2)  しかし、その内容が債権譲渡契約であつたこと乃至原告主張の如きものであつたことは否認する。

三、第三項中

(1)  被告が破産会社から昭和二十七年八月三十一日、(被告の準備書面に添付してある)別紙目録記載の在庫品の引渡を受けたことは認める。

(2)  しかし、それが前記(被告の準備書面の二、に記載してある)契約に基いたということは否認する。

この引渡は昭和二十七年八月三十一日に締結された譲渡担保契約(甲第四号証はその契約書)に基いて為されたのである。

(3)  被告が引渡を受けた前記物件を売却した年月日及びその売却代金は不知。

(4)  被告が売却代金から二百万千四百円を破産会社に対する貸付元利金の一部に充当したことは認める、但しそれが右売却代金の全部であるかどうかは不知。

(5)  訴状第五項(3) 及び(4) の売掛代金債権を昭二十七年九月十二日に譲受けたこと、並にそれが前記契約(被告の準備書面二、)に基くものであることは否認する。

(6)  訴状第六項(3) の金二十万円を破産会社に対する貸付元利金の一部に充当したことは認める。しかしそれが「売掛代金債権を昭和二十七年九月十二日に譲受けたので前記契約(被告の準備書面二、か?)に基くもの」であることは否認する。

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